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仙台高等裁判所 昭和26年(ネ)63号 判決 1952年6月30日

主文

原判決を取消す。

控訴人の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人岩手県農地委員会が別紙記目の土地につき昭和二十四年二月一日公告した買収計画を取消す。被控訴人岩手県知事が昭和二十五年九月十三日岩手県告示第四二九号を以つてした別紙記目の土地に対する買収処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、右買収処分の取消を求める部分については、訴却下の判決を求め、その他の部分については、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、

一、原判決摘示事実中(一枚目裏九行目)「自作地及び小作地であるが」とあるを「全部小作地であるが」と訂正する。

二、控訴人が本件裁決書を受領したのは、昭和二十四年八月二十五日である。

三、被控訴人岩手県知事は、昭和二十五年九月十三日岩手県報号外を以つて岩手県告示第四二九号として、買収令書番号岩手を一八一六所有者住所氏名帯広市東五条南六丁目太田新作と本件係争土地につき買収令書の交付に代る公告をした。

と述べ、被控訴人等代理人において、控訴代理人が当審において主張した右事実中本件裁決書を控訴人に交付したのは、昭和二十四年八月十七日である。また三の事実は争わないが、控訴人が当審において拡張した買収処分の取消を求める請求は、出訴期間経過後提起された不適法なものである。

と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(立証省略)

理由

よつてまず本訴の適否につき按ずるに、控訴人の本訴請求は原審以来被控訴人岩手県農地委員会が自作農創設特別措置法(以下自創法と略称す)第三条第一号の規定によつて樹立し、昭和二十四年二月一日公告した控訴人所有の別紙記目記載の土地についての買収計画の取消及び被控訴人岩手県知事が右買収計画に対する控訴人の訴願につき同年八月四日附でした訴願棄却の裁決の取消を求めるというのであつたが、当審における最終口頭弁論期日である昭和二十七年六月九日に至り右請求のうち被控訴人岩手県知事に対して訴願棄却の裁決の取消を求める部分を、同被控訴人が買収令書の交付に代え昭和二十五年九月十三日岩手県告示第四二九号を以つて右土地の買取処分の取消を求める旨の請求に変更した。そして右請求の変更については、被控訴人において何等異議を述べないのであるからして、控訴人の右請求変更により従前の訴願棄却裁決の取消を求める部分は取下げられ、新に買収処分の取消を求める請求が附加されたものというべきである。従つて控訴人が本訴において維持するのは、右買収計画の取消及び買取処分取消を求める請求に外ならない。

ところで、行政事件訴訟特例法第五条第一項第四項第五項、自創法第四十七条の二によれば、自創法による行政庁の処分で違法なものの取消または変更を求める訴は、当事者がその処分のあつたことを知つた日から一箇月以内にこれを提起しなければならないし、また処分の日から二箇月を経過したときは訴を提起することができない。そして右期間は処分につき訴願の裁決を経た場合には訴願の裁決のあつたことを知つた日またわ訴願裁決の日からこれを起算するというのである。本件において成立に争のない甲第二号証の一、二及び乙第二、三号証の各記載、当審証人菅原雄の証言当審における控訴本人尋問の結果並に口頭弁論の全趣旨によれば控訴人は北海道に居住し現在に及ぶものであつて、郷里東磐井郡奥玉村には終戦後から長男太田正が居住しており、本件買収計画に対する異議、訴願等の手続はすべて長男正にまかせていたもので、本件訴願書にも訴願人控訴人の住所を東磐井郡奥玉村字中日向と記載して提出されたものであるところ、昭和二十四年八月四日附の本件訴願裁決書は、奥玉農地委員会を通じて昭和二十四年八月十七日右訴願書記載の東磐井郡奥玉村字中日向二番地の右太田正方に送達され、同人に於て、これを受領したことが認められ、右認定を妨げるに足る証拠はない。右のように訴願書が送られ、訴願人である控訴人からすべてをまかされていた控訴人の長男正においてこれを受取つた以上、たとえ控訴人が右裁決のあつたことを現実に知つたのは、その後であつたとしても、右送達の日即ち昭和二十四年八月十七日に訴願の裁決があつたことを知つたと同様に解するを相当とする。本件買収計画の取消を求める本訴の提起されたのは、右裁決書の日から一箇月以上経過した昭和二十四年九月二十三日であることは記録上明かであるから控訴人の本訴請求中、買収計画の取消を求める部分は、出訴期間経過後に提起された不適法な訴として却下すべきである。

また自創法上の買収計画、訴願の裁決、買収処分等は段階的一連の手続的行為ではあるが、その各々が一つの行政処分として独立して訴訟の対象となり得るものであつて、その出訴期間は各行為毎に各別に定めるべきものと解すべきであるところ、控訴代理人は、前記認定のように昭和二十七年六月九日の本件口頭弁論期日において、被控訴人岩手県知事が昭和二十五年九月十三日岩手県報号外に買収令書の交付に代る公告をして行つた買収処分の取消を求めたのであるから、右買収処分取消の訴は、同日新に提起されたものと解すべきである。従つてこれまた前記法条に照し出訴期間経過後に提起された不適法な訴として却下を免れない。

以上の次第で控訴人の本訴は全部不適法として却下すべきであるから、原判決は結局不当で取消を免れない。

よつて民事訴訟法第三百八十六条第九十六条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。(昭和二七年六月三〇日仙台高等裁判所第一民事部)

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